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【第一部:第十一章】

 ガレは弾かれたように顔を上げた。

 その目と鼻の先に、大きく見開かれた金色の片目があり、次いで、あ、と聞き慣れない高い声が聞え、ガレは至近の見慣れぬ顔に驚いて仰け反ろうとするも、片腕が持ち上がらずそのままべたりと腹這いになる。

 混乱は一瞬。

「ガレ。着いたよ」

 理解に、数秒。

 間近でガレの鼻先を摘まんで引っ張り上げながら、こんな状況で熟睡できるなんてガレって神経太いよねと言ってのけたのは、毛皮で着膨れたユズリハ。
 ガレは毛皮の隙間から入り込む冷たい空気に前留めを掻き寄せつつ、腹這いの姿勢で顎を上げ、頭上を見る。
 大型飛行闇迷獣コツキの深い毛を透かし、木漏れ日のように陽が差している。腹の下には温度の無い、しかし弾力のあるコツキの背と、下敷きにしている倒れた産毛。風は殆どといっていいほど感じないが、空気は冷たい。
 ガレの左腕には、自分で巻き付けた命綱とも呼べる組紐があり、その組紐はコツキの毛に固く結わえつけてある。
 ガレは腕に巻き付けた組紐を解きながら、寝起きで掠れた声を取り繕う事も出来ず、のろのろを言葉を返した。
「……、今朝、あんまり寝れてなくて…。ぎ、しぎし、さん、と。丙種、還儀。が。それで、多分、うとうと…」
「わ。ガレ、声がらがら。うとうとっていうか熟睡してたし。寝不足で今から還儀とか大丈夫? 結構おっきいよ、迷獣。あ、それと、その「ギシギシサン」が呼んでるんだってば。早くこいってさ」
「ふひぇ…」
 ガレはなかなか解けない組紐に苦戦しながら何度もユズリハの言葉を反芻し、紐が完全に解ける頃になって漸く言葉の意味を飲み込んだ。
 ケッコウ オッキイヨ
 今、ユズリハは確かにそう言った。
 それはつまり、と、ユズリハに手を引かれるまま立ち上がり、コツキの深い毛の隙間から顔を出した途端、ガレは大袈裟なほど仰け反り、叫ぶ。
「ホボボボボベォッフッ! さ、寒ッ!? え、なにこれ、なん、なんでこんな寒ッ、ッボフふァッ、!?」
 前方からガレの額を殴り付ける強風は曉鴉本部発着塔の蒸し暑い西風とは比べ物にならないほど強く、刺すように冷たい。
 その轟々と吹き荒ぶ風の音で、自身が発した声すら聞こえない。そもそも、まともに喋れない。
 鼻腔を貫く冷風に慌てたガレが毛の中に引っ込むのを笑って眺めながら、ユズリハも一度毛の中に屈み込むと、
「まだ飛んでるから、油断してると吹っ飛ばされるよ。コツキチャンの毛掴んで歩かないと」
と事もなげに言ってのけ、再び立ち上がって前方に生える草色の藻のようなもの目掛けてずいずいと毛を掻き分け進んで行く。
 ガレはユズリハの掻き分けた後ろをついて歩き、草色の藻に近付いて初めて、ああ、あれ、ギシギシサンの頭かぁと気が付いた。
 シグレは胸の中ほどまで毛に埋まったままコツキの頭部ほど近い場所に立ち、赤い組紐の手綱を取って凝っと前方を見据えている。
 話し掛けていいものかどうか。
 この強風の中では、怒鳴るぐらいの勢いでなければ何を言っても届きそうにもない。
 ガレは途中、膝まである大きな突起らしきものに足を取られながらも、躊躇いがちにシグレの斜め後ろまで近付き、風に顔をなぶられるままシグレの視線の先を見る。

 コツキの身体の端から、山が見えた。

 頂に真綿の如き雲を纏い、幾重もの層を成してその先の景色を遮る天北端の山脈、九花岳。
 夕国第三の霊峰として信仰篤く、また、羽呻最大の山、燈伍天最北端、北壁として知られる大山系。
 ガレは翻る毛皮と髪を押さえる事も出来ず、両手で強くコツキの毛を握り締めながら短く息を吐いた。

 こんなにおっきい山、見た事無い。
 乱尾島にも山はあるけど、今、目の前にある山とは比べものにならないぐらい小さい。単騎飛行闇迷獣で軽く一周出来るし。徒歩でてっぺんまで登れたし。ばーむーに、山行ってくるねって言ったら、果物採ってきてってお願いされるぐらい、登るのが当たり前で身近なもの。
 でもこの山は違う。
 オレの知ってる山とは違う。
 何が違うかはわかんないけど、ちょっと怖いぐらいに拒絶されてる感じがする。
 人を寄せ付けない、そんな山だ。

「うーわあぁあーッ、すっごー!! これで白秋、黒冬は真っ白とか絶景じゃんねえ!? 黒冬の九花岳も見てみたかったァ、絶対綺麗だよこれほんとすッッごいなああ!」
 いつの間に寄ってきていたのか、ガレの真横に湧いて出たユズリハが強風に負けてなるものかとばかりの大きな声で言う。
 ガレは何くれとなく声を掛けてくれるユズリハの存在を心底有り難く思いながら頭がもげそうな勢いで頷き、何かいい返事を返さなければと考えるのだが、
「しや、あ、違った、ゆず、ユズリハも、九花岳、見るの初めてなんだ?」
「え!? なに!? 聞こえない!」
「ゆずッ…、りは、は…! 九花岳見るの、はッ、」
「ごめっ、聞こえないってー!!」
「かぜが…! へばばb」
「風がなんってェ!?」

 風の妨害により、言葉はそう簡単には届かない。

「ところでさー! こっからどうするの、シグレー!?」
 暫くはガレの声を拾うべく耳裏に手を添えて集中していたユズリハも、埒があかないと判断するなり早々に会話を切り上げ、ガレを挟んだ二隣りで突っ立っているシグレに問い掛ける。
 ガレはユズリハが振ってくれた会話に上手く乗れなかった事を悔やみながらも、慌ててシグレに向き直り、その言葉を聞くべく耳を澄ました。今度こそ一回でやるべき事を把握するんだ、という強い決意と共に。

 シグレは組紐から片手を放し、コツキの肩を透かすよう、斜め前方を指し示した。

 歪な斜面に深い緑、その緑をところどころ覆い隠す白い雲。其処に紛れる綿花にも似た白一点。山肌に添うように蹲って眠る、貉のなりをした異形の姿。
 そのたっぷりとした尾は三又に別れ、目元の毛は遠目にもくっきりと黒い。
 確かに、狸と表現するのが相応しい面持ちの、

 丁種闇迷獣。

 ガレにはその闇迷獣が仔猫ほどの大きさに見えたが、ふと、横に倒れている無数の細長いものに気付き、確かあれはハリノキだかワワガタナだかって名前の木で、育ったやつでも十米ぐらいの高さってサイノハラさんがー…と考えたところで、さっと血の気が下がった。
 件の闇迷獣の頭から尻までで、ワワガタナが一本、二本、三本。三又の尾を含めれば四本、五本ー…。

 確かに、大きい。

 シグレは組紐を緩めて深い毛の下でコツキの頭を何度か踏む。コツキは組紐の緩んだ分だけ頭を下げると、風に逆らわぬよう一度身体を斜めに傾けてから、するりと静かに滑空する。
 コツキの深い毛はなめらかに風を受け流し、ひとたび毛の内側へと入り込むだけで完全に微風すら感じさせない。
 内臓も浮くよな浮遊感、毛から覗かせた顔面を容赦なく殴り付ける凍風、見る間に迫る九花岳山肌、輪郭の曖昧な風景、掴めぬ距離感。
 あ、これ、気持ち悪い。
 ざむざむする。
 やばい吐くかも。
 異形の大きさを確認して下がったガレの血の気は戻る事もなく、急下降により更に下がる。
 一体どこまで山に近付く気なのか、どこに着地するのかと眺める中、シグレは組紐を放してコツキの毛を掴みながら前へ前へと進み、それ以上先は無いという端まで移動すると、一度だけガレとユズリハを振り返って顎をしゃくって見せ、

 そのままひょいと飛び降りた。

 ガレとユズリハは目を見張って硬直したが、ユズリハの決断は早かった。
 ユズリハは「にこせいがん!」と勢いよく叫んでその場で前傾姿勢を解くと、コツキの毛を掴んでいた両手を放し、脇に花柄の袋を挟んだまま下駄履きの底で体表を蹴って後方に飛ぶ。すると明るい色の袖が風に巻き込まれるように舞い上がり、木っ端が如き軽さで中身ごとコツキの尾の方へと飛んで行く。
 ゆずりはァああああァアあ!!!?
 ガレは力の限り叫んだが、その声が届くよりも早くユズリハの姿はコツキの下方に消えた。
 ガレは狼狽した。
 だが、続かなければ、自分も降りなければという妙な連帯感が芽生え、それはガレの思考を麻痺させる。
 二人とも落ちても大丈夫って確信があるから飛び降りたんだ。なら、二人に倣えばきっと大丈夫、ついていかないと、ついていかないと、ついていけばきっとなんとかなる、行ける、オレだって島の崖から落ちて生きてたし、案外下から風がきてるのかもだし、それにほら、こんなところで落ちるのは戦略的に何か意味が…。
 意味がある筈…。
 まさか死んだりとか、それはない…と思う。
 そんな顔面蒼白で縮こまるガレの横を素通りする、盛り上がった毛の一山。
 ガレが生唾を飲んで離脱の覚悟を決める傍ら、毛の小山はのくのくと前へ進み、シグレが落ちた端まで行ったところでそのままぺたりと山が潰れた。
 そこでガレは漸く気が付いた。
 今のはノスケが歩いていたのだと。
 毛に埋もれたまま、端から落ちたのだと。
 もうガレに迷っている暇は無かった。
 ガレは思い切って背筋を伸ばし、勢いよく両手を離す。ユズリハと同じよう、後方に飛ばされる事を覚悟して息を詰めたが、予想していた前方からの衝撃は無く、逆に、立ち眩みにも似た覚束なさに足元がふらついた。
 それもそのはず。
 大型飛行闇迷獣コツキは九花岳への衝突を回避するため、直滑降の角度から鼻先を上げ、そのまま円を描くように上空へ舞い上がっていたのだから。

 あれ、と思う頃にはガレは熟れた柿が落ちるが如く、ぽつんと空に落ちていた。

 コツキが上昇していたおかげで、ガレが先に降りた誰よりも高高度からの落下となった。
 ガレは風の冷たさと痛さに叫ぶ事も出来ず、風圧で手足が大の字に伸びるのもそのままに、ただあへあへと宙を舞った。正直、助かる気がしなかった。何故この高さから降りて大丈夫、死なないと思ったのか、飛び降りる前の己に問うてみたかった。否、飛び降りていない。不可抗力により落とされたのだ。だがそんな違いは瑣末な事。現在落下中のガレにとってはどちらでも変わらない。
 ガレの遥か下方には、下向きに爆還を行う事で落下の速度を和らげているユズリハと、毛皮を掻き抱きながら小さく丸まって落ちているノスケの姿。シグレは何処へ行ってしまったのか、ガレからは姿が確認出来ないほど下に落ちて行ってしまっている様子。
 為すすべなくただ落ちるだけのガレが、大きな扇子二本で還を爆ぜさせ落下の勢いを殺しながら着地点を見極めるユズリハを追い越すのに、そう時間は掛からない。残念な事にガレは爆還術が使えなかった。追い越す際にユズリハの爆還に煽られ、ガレの身体は何度も上へ下へ裏返る。ガレの腰に結わえた巾着から、ほろほろと非常食の豆が飛んだ。
 もうこれは。
 もうこれはちょっと落ちてみないとどうなるかわからない。十中八九死ぬと思う。死なない気がしない。でも一応オレも術師だし、還の廻りによっては「打ちどころが良かった」で済むかもしれない。「打ちどころがいい」って、どう落ちたら「打ちどころがいい」状態なんだろ。悪いのは首とか頭なわけだから、足とか、やっぱり受身と同じで背中からとかなら…? あ、でも、そういやさっき見た足場、倒れたワワガタナだらけだった。箸ぐらいに見えたけど、実際はそれなりに大きいんだろう。そんな丸太のごろごろしてるとこに受身取りつつ突っ込んだって肩の骨とか背骨とか粉砕なんじゃないの。詰んだ。これ詰んだ。どう落ちても助かる気がしないあははあはえへへていうか視界がぐるぐる変わって気持ち悪いもういいやこのまま吐いちゃえどうせ空に飛んでくさ…。

 と、ガレが自暴自棄になったその数瞬後。

 それまでガレと地面を隔てるものなど何もなかった宙に、突如、風呂敷が広がるかのよな、ぼッという空気を孕む音と共に白い何かが現れる。
 その白い毛の生えたものは滑空する身にはまるで上空、自分目掛けて浮き上がってくるようにも見え、ガレはあれよと言う間に顔面から激突、溺れる者は藁をも掴むというが落ちる者もまた同じ。反射的に毛を掴み、岩肌に取り付く要領でその毛玉に縋り付いた。
 そうしてしがみ付いて初めて、ガレはこの白い毛玉が生き物の毛皮である事に気付き、わけもわからぬ内に自分の下を飛んでいた大きな鳥でも捕まえてしまったのかと思う。
 風の唸る音に紛れ距離は判然としないが、少し離れたところで「むりぢゃあ!」と叫ぶしわがれた声と、「十八鱗貴様ァアアアア!」と絶叫する子どものー…ノスケの声が聞こえたような気もしたが、無我夢中で毛にしがみつくガレには顔を上げる余裕など無く、鼻腔が凍て付くという未だ嘗て体験した事のない感覚と際限なく襲い来る嘔吐感に翻弄される内に、

 ガレはしがみついた毛玉ごと何かにぶち当たり、跳ね返った。
 
 衝突の衝撃に毛玉から振り落とされ、地面に投げ出される直前、ガレは思った。

 おなか空いた。
 オレ、最期に食べたのが豆って。
 豆って。
 それってどうなの。
 どうせならばーむーの焼ばなな食べたかったな。

 目を閉じれば、皿に山盛りの焼ばななを乗せた小さな祖母が「がえちゅー」と己の名を呼びながら大きな樹の下で微笑んでいる情景が浮かぶ。
 嗚呼、これが臨死体験ってやつかな等と他人事のように思いつつ、ガレは、幸せな気分のまま地面に落ちて転がった。

 一口、二口だが、焼ばななを食べた。
 臨死中に。

 意識の断絶は十数分。

 朝、確かに一度は起きた筈なのに気付いたらうっかり二度寝していたー…その程度の時間の喪失。

 次に目を開けた瞬間、ガレの双海に写り込んだのは、縦に鮮烈な躑躅色を浮かべる二つの濡れた黒球体と真白の毛並み。
 なぁにこれ。
 黒くて丸い。
 ぬばたま??
 何かの果物…、じゃないのは確か。
 一拍も二拍も遅れてそれが闇迷獣の目である事に気付いたガレは、突如大きく響き出す己が心音に焦りながらも即座に手を合わせて【封】を切り、右手を振り抜きながら甲に爪状の得物を表出させる。

 【--暗器術:其れ即ち紋術を介し、施しし印に闇迷が牙爪を納めし技也。其の形態を問わず、総じて闇迷の躯より組みしもののみ納むる】(「国定術技大系」第六版)

 ガレの顔を覗き込まんばかりの勢いで顔を近付けていた闇迷獣は突然構えられた暗器爪に全身の毛を逆立て、前肢を振り上げてガレを得物ごと弾き飛ばしに掛かる。ガレの中で「防ぐ」「避ける」の二択が上がるも、威力のわからない打撃を受け止めるわけにもいかず、さりとて身体を起こす間もなく、思わず反射的に横へと避けて転がれば、
「うわゥッ!?」
 そこは比較的傾斜のきつい斜面であったらしい。
 ガレからして「横」は斜面の「上下」。転がりやすい方、即ち下方へと転がった結果、ガレの身体はそのまま青々とした草の上を滑り、本来避ける予定だった闇迷獣の足元にぶつかって止まる。
「……、んぇ、ッ?」
 …かと思わせて、それは積み木が崩れるが如き連鎖の始まりとなった。
 ガレが滑る。闇迷獣の後ろ足にぶつかる。そのまま闇迷獣の足を掴む。闇迷獣が足を引かれて均衡を失う。ガレの上に尻から倒れ込む。ガレが顔前に両手を翳して防御する。ガレの暗器爪が闇迷獣の尻を刺す。闇迷獣が暴れる。一人と一体がまとめて斜面を転がり落ちる。
 そして、十数米滑降したのち諸共倒木にぶつかり、奇声を上げる。
 コツキの上から見た時には結構な大きさに見えた闇迷獣も、こうして組み合ってみると精々が三米といったところか。躑躅色が眩い細長の尾を含めれば倍はあるかもしれない。
 激突した倒木に縋り付いて身を起こしながら、ガレは「ん?」と今更ながら思う。

 …つつじの尾?

 あの時見た闇迷獣は白い三又の尾をしてはいなかったか。
 ガレは今一度、己の傍らでおぶおぶと宙を掻くように四肢を動かしている闇迷獣を確認しようとしたが、それは叶わなかった。
 地鳴りの如き轟音と振動に足を掬われ、その場に尻餅をついてしまったからだ。
 遥か上方で、白い巨体がハリノキを薙ぎ倒しながら急勾配の斜面に倒れる姿が映った。
「……え?」
 三又の尾の、白貉。
「………、エッ!?」
 ガレは横で両手両足をばたつかせている闇迷獣を見る。
 次に、砂糖が崩れるかの如く消滅する白貉を見る。

 そして唐突に合点がいった。

 本来の還儀対象は、たった今、大量の白毛を残して消え去ったあちら。
 ならばこの躑躅色の長尾を持つ異形は一体、と、茫然自失の眼差しで見詰めていれば、
「この痴れ者があァアッ!! 無断で尻に掴まるのみならず刺しおった、刺しおっ、おッ、おっ、さ、さされた! 常ならば易々と、易々と降りたものを、斯様な目に遭うたは貴様の所為ぢゃぞわっぱめが! ノスケに言うからの、ワシァ知らんぞ、ワシ悪ぅないぞ、ワシの所為ぢゃないと貴様も口添えせいよ、せなんだら許さんぞ、本当ぢゃぞ! 詫びろ、詫びんかわびんか!」
「え、ええええええええええええ」
 怒られた。
 よくわからないが、したたか怒られた。
 その勢いに気圧され、わけもわからず謝るガレの肩にぽんと手を乗せたのは、いつから其処に居たのか二本の大扇子を小脇に抱えて立つユズリハ。
 ユズリハは混乱極まるガレを見下ろしながら、抜けるような明るい声で言った。

「任せて」
「上から全部見てたから、説明したげる」

 青空に波紋、青海波。季節外れの枯葉が一枚、九花岳を吹き下ろす風に乗り南の空に舞う。

 十六時過ぎの事であった。